盛岡地方裁判所 昭和26年(行)11号 判決
原告 上大沢喜八
被告 岩手県知事
一、主 文
被告が昭和二十四年一月一日附岩手り第四五一五号買収令書を以て岩手県九戸郡種市町第六十九地割四十五番畑一反二畝八歩につきなした買収処分は無効なることを確認する。
訴訟費用は被告の負担とする。
二、事 実
原告訴訟代理人は主文同旨の判決を求め、その請求原因として主文第一項掲記の畑は原告所有のものであるが、訴外岩手県農地委員会は種市村農地委員会(種市村はその後町制が施行された)を代行し、第九期買収計画において右畑全部につき、これを小作地なりとして買収計画をたて、これに基き被告は昭和二十四年六月五日主文第一項掲記の買収令書を原告に交付して右畑全部を買収した。しかし右買収は次のような違法がある。
一、右畑の面積は一反二畝八歩であるが、その半分以上の七畝は小作地ではなくいわゆる基準時である昭和二十年十一月二十三日以前からの自作地である。これを全部小作地としてたてた前示買収計画は全部違法である。従つてこれに基く右買収もまた違法である。
二、原告は前示買収計画につき、岩手県農地委員会に対し異議申立をしたが却下されたので、更に被告に対し訴願したところ、被告は昭和二十六年三月五日訴願棄却の裁決をし、その裁決書は同月十九日原告に交付された。前示のように買収令書が原告に交付されたのは昭和二十四年六月五日であるから、右買収は、買収計画に対する訴願裁決前であることは勿論、その裁決書の交付前になされた違法がある。
以上の違法事実はいずれも重大な瑕疵であり買収の効果を生ぜしめるに由ないものである。そこで右買収処分が無効であることの判決を求めるため本訴に及ぶ旨陳述し、前示買収計画樹立の日が昭和二十三年十月二十六日であることは被告主張のとうりであるが右が遡及買収であるか否かは知らないと述べた。(立証省略)
被告訴訟代理人は原告の請求はこれを棄却するとの判決を求め原告主張の原因事実のうち本件畑地の一部が自作地であるとの点を除きその余の事実は認める。本件畑は昭和二十年十一月二十三日の基準時において全部小作地であつたから買収したのである。従つて原告主張の第一のような違法はない。又買収計画に対する訴願裁決及びその裁決書の交付前に買収処分をしても、その買収処分が当然無効というべきでないから、原告の主張はいずれも理由がないと答弁し、本件買収はいわゆる遡及買収であり、買収計画樹立の日は昭和二十三年十月二十六日であると述べた。(立証省略)
三、理 由
訴外岩手県農地委員会が原告所有の本件農地につき昭和二十三年十月二十六日買収計画を樹て、これに対し原告が異議申立をしたところ同委員会が却下したので、原告は更に被告に対し訴願したところ被告は昭和二十六年三月五日棄却の裁決をし、その裁決書は同月十九日原告に交付されたこと、被告が右訴願裁決並に裁決書の交付に先だち、昭和二十四年一月一日附岩手り第四五一五号買収令書を昭和二十四年六月五日原告に交付して本件農地を買収したこと以上の事実は当事者間に争のないところである。
よつて右のような手続による買収の効力につき考察する。農地買収処分は買収令書を当該農地所有者に交付してなすのであつて(自作農創設特別措置法(以下単に法という。)第九条)右令書の交付により買収処分が完了し買収の効力が生ずるのである。そしてまた買収計画から買収処分に至る迄の一連の買収手続の中で買収計画に対する訴願があつた場合には、訴願裁決、買収計画に対する承認を経てから買収処分をしなければならないのである。(法第八条第四十七条)。しかして法が買収計画に対し訴願を認めたのは、いうまでもなく当該農地所有者の利益保護の為に当該農地所有者に与えた権利であつて奪うことのできないものであるから買収処分が前示の如くである以上、買収計画に対する訴願の裁決は少くとも買収令書交付前になされなければならない。そうでないと訴願の目的は遂に達せられず訴願の権利を奪うと同一結果を招来することになる。しかして農地買収手続において法が与えた当該農地所有者の右のような訴願の権利を奪うような手続上の瑕疵は単に当該買収処分を違法ならしめるに止まるものでなく、右瑕疵は重大であつて、当該買収処分を無効ならしめるものであるといわなければならない。そうだとすれば本件買収処分の手続が前示のとおりであるから、本件買収処分は爾余の点につき審理判断をする迄もなく無効な処分であるといわなければならない。
よつて原告の本訴請求を正当として認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用し主文のとおり判決する。
(裁判官 小嶋彌作 小野寺文平 佐藤幸太郎)